萬國四季協会 さくらんぼの実るころ公演「三人姉妹」
6月28日 於:上野ストアハウス
チェーホフの「三人姉妹」のうち、華のあるキャラクターは次女のマーシャに三女のイリーナだろう。あるいは、長男アンドレイの嫁ナターシャのような、次第に本性を現していく女。いくつかの恋愛と若さにあふれた彼女らに比べ、いまひとつ生真面目で堅物な長女オリガはどこか一歩引いたような存在だ。
萬國四季協會の「三人姉妹」は、オーソドックスな群像劇として演じられているにもかかわらず、長女のオリガが気になった。さえない夫に不満を抱き陸軍中佐のヴェルニーシンに道ならぬ恋をするマーシャをたしなめ、年老いた乳母を追い出そうとするナターシャに果敢な抗議をぶつけ、博打に負けて屋敷を無断で抵当に入れたアンドレイに頭を痛める。トゥーゼンバフ男爵の求婚を受け入れるようにイリーナの背中を押し、男爵が決闘で殺されたときはイリーナを心から慰める。いつも頭が痛い、疲れていると言っているにも関わらず、人から頼まれたら断りきれない。これはもう単なる世話好きとはいえない。
嫁の尻に敷かれたアンドレイに代わり、オリガは自分の幸福よりも、きょうだいたちの幸せのため自分は踏み台となって、「家長」に等しい重責を一人で担っている。
人口に膾炙するオリガの最後の独白「それがわかったらね」は、彼女ほど苦労をしていればそうだよねー、と思えるほどリアリティがあった。
初めて観る劇団だったが、過去公演記録にはチェーホフの作品がいくつかあり、本作は昨年の「かもめ」に続き、四大戯曲の3作目。残る1作は「桜の園」だ。どんなキャラクターに脚光が当たるのか、大いに期待したい。
(文:滝沢 三佐子/撮影:望月 昭弘)
映画「スターリンの葬送狂騒曲」
2017年、英・仏 アーマンド・イアヌッチ監督作品
フランスの小説家ファビアン・ニュリによる『La mort de Staline』が原作。
「“ヒトラーを超える大量虐殺”ソ連の独裁者スターリンが急死!厳かなはずの国葬の裏側で、最高権力者の座を巡り、狂気のイス獲りゲームが始まる-!」という配給会社のコピーにもあるように、ここまでやるかのブラックコメディ。当然のことながら、ロシア国内では賛否両論となり、文化省が上演を禁止した(だが、ネットでは観られる)。ベラルーシ、カザフスタンなどでも同様に上映禁止となった。
ここ数年のロシアとEUおよびイギリスをめぐる対立もあって、この作品を単なるコメディと見るか歴史への挑戦と見るかは観客一人ひとりの感受性にかかっているだろう。「帰って来たヒトラー」など、別のブラックコメディと比べてみるのも一興かも。
英米のそっくりさん俳優陣の中で、唯一オルガ・キュリレンコだけがウクライナ出身、ピアニストのマリア・ユーディナを演じている。
8月3日よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開。横浜は9月15日よりジャック&ベティにて。
文:滝沢 三佐子
(C)2017 MITICO・MAIN JOURNEY・GAUMONT・FRANCE 3 CINEMA・AFPI・PANACHE・PRODUCTIONS・LA CIE CINEMATOGRAPHIQUE・DEATH OF STALIN THE FILM LTD
1935年から最近までの映画24本を上映
ロシア・ソビエト映画祭
1935年の「マクシムの青春」から2017年の「アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語」「マチルダ」まで、24本の映画を上映する「ロシア・ソビエト映画祭」が7月10日~8月5日の間、国立アーカイブ長瀬記念ホールで行われましたが、みなさま楽しまれましたでしょうか。
同映画祭の開催を祝う開幕記念パーティーが7月10日(火)国立映画アーカイブ6階ホールで催されました。
会場には、映画「マチルダ」のアレクセイ・ウチーチェリ監督が登壇し、日本の映画人との繋がりを強めたいとの挨拶がありました。
日本側からは、ロシアとの合作映画に多数出演している栗原小巻さんが、撮影当時の思い出を含めて、これからも両国の文化交流を強めていきましょうとの呼びかけがありました。
来賓として、ガルージン駐日ロシア大使の挨拶もありました。
(木佐森)
行き過ぎた反米親中路線の修正
ユーラシア研究所第30回総合シンポジウム「アジアの中の日露関係」
ユーラシア研究所第30回総合シンポジウム「アジアの中の日露関係」が、7月14日(土)東京広尾の聖心女子大宮代ホールで開催されました。3本の報告と全報告者によるパネルディスカッションです。
報告Iは、「ビジネスの面から見たアジアにおける日露関係―脱欧入亜は成功するか」を三井物産執行役員の目黒裕志氏が報告。クリミア併合による経済制裁後もドイツからのロシア進出(6000社)は拡大したおり、日本は200社に留まっているなど、欧州中心に変わりがないこと。中東、アフリカ向けにロシアの穀物や食肉の輸出が拡大しており、それに比べ亜細亜諸国との貿易は拡大していないとのこと。
報告IIは、「東アジアの安全保障から見た日露関係―関係正常化の戦略的意義」で防衛研究所地域研究部長の兵頭慎治氏が報告。プーチン体制は24年に向けて後継者づくりに入っている。今後の外交課題として「行き過ぎた反米親中路線の修正」、「過度な対中依存を避けるためにインド・日本を重視」、領土平和条約協議においても「東アジアの安全保障環境の安定化のために日露関係を高める」方針であるとしました。
報告IIIは、「北東アジアの国際関係から考える日本とロシアの選択」で北大特任助教の加藤美保子氏が、さまざまな公開資料や発言を取り集めて報告しました。
報告者による、パネルディスカッションでは、目黒氏は「中国は、ビジネスの面から見るとロシアを相手にしていない。あくまで米国中心だ」。兵頭氏は「ロシアの経済面での中国依存は続く、そして、プーチンは再度欧州に接近していくだろう」としました。
まとめの石郷岡氏のコメントは「中国はロシアからの石油の輸入がサウジを抜き第1位になって、エネルギー面の対ロ依存は大きくなっている。」「中国は経済的には地域の中心になるが、政治的理念がないので地域や世界の中心になることはできない」としました。
同シンポジウムの後、同大学内のカフェテラスで懇親会が開かれました。神奈川県協会からは坂本さんと2名が参加しました。
(木佐森)
タジクの運命はアフガン国境にある 第11回中央アジア東京対話
「中央アジアの地域協力と地域安全保障の戦略的展望」というテーマで「中央アジア+日本」対話 第11回東京対話が、7月3日(火)午後3時から霞が関の外務省国際会議室北760号室で行われました。
安全保障ということで、各国とも安全保障担当部局の幹部が来日したようです。タジキスタンは国家戦略研究所外交政策部長、カザフスタンは安全保障会議副書記、キルギスは安全保障会議事務局検査官、トルクメニスタンは外務省中東局長、ウズベキスタンは外務省国際関係情報分析センターアジア大洋州地域課長です。
まず各国からの報告が行われました。最初のタジクは「アフガンとの国境がタジクの運命を決定する」として、アフガン国境に集結しているISテロ集団の動向が重要だとしました。カザフは、3月に中央アジア5か国会議をアスタナで開催し、5か国の連携強化を図ったとのこと。キルギスは「カザフとの2国間協議が進んでいるが、パキスタンはテロ戦闘員を提供国になっており、危惧していると報告。トルクは「中央アジア5か国が抱えている問題は共通している、それはテロ問題であり、アフガン国民の生活安定が一番重要である」としました。ウズベクは、「中央アジアの状況は1年前から大きく変化している。各国と水と電力関係で前進があった。タジクへの高速鉄道建設の計画もある」とのこと。
日本側からは、アフガン問題を研究している青木健太お茶の水女子大グローバル協力センター特任講師、中国問題研究者の川島真東大大学院総合文化研究科教授が、それぞれ、アフガンの課題は「麻薬であり、中央アジアからロシア経由で欧州に流れている。また、アフガンのインフラ建設にインドが積極的に乗り出している」、「中国は、中央アジア諸国に対して、経済を梃にして政治的軍事的影響を強めている」との報告がありました。各国担当者間のパネルデスカッションでは、カザフから「今回の対話の意味がよくわからない」との疑問が投げかけられました。
また、会場発言として、駐日アフガニスタン大使から、「アフガンの麻薬地帯である三角地域で殺戮が強まっている」などのアフガンの近況が語られました。
今回の対話に先立ち、午後1時から、「秋野豊・元国連タジキスタン監視団政務官没後20年シンポジウム」があり、秋野豊氏の同僚や教え子が当時の様子や、現在の研究課題などを報告。タジキスタン側から「タジキスタン和平プロセスにおいて秋野氏が果たした役割」が報告されました。
神奈川県協会からは板垣さんと2人で出席しました。
(木佐森)
書評「小さい魔女」
オトフリート=プロイスラー 作
大塚 勇三 訳
価格 900円+税
この童話の主人公は、魔女である。124才で、魔女の仲間で一番の若手である。しかし、一つの楽しみがある。ワルプルギスの夜(4/30~5/1)で、魔女仲間と夜会を盛大にひらき、火の回りで騒ぎつつ季節の変わり目を祝うことである。原作者のオトフリート・プロイスラーは、チェコが生んだ、リンドグレーンと並び賞される現代児童作家である。加えてここに出てくる魔女は、魔法の度に間違えて、雨を降らせようとして、白ねずみ、カエル、モミの実とくるのだ。一体、どこで間違えるというのか!親友のカラスのアブラクサスでさえ、呆れ返っている状態。それでも練習に余念がなく、一日ずつ大きな失敗と小さな成功を積み上げていく。作者が生まれた所には、金鉱跡 があったり、コウモリがたくさんぶら下がったり、鬼火を見たり、不気味と不思議さが同居している町、チェコ、リベレツの作家は、第2次世界大戦後、ドイツのシュロスベルクという村で、小学校の教師をしつつ、短いお話を書き始めた。まず自分の子供のために。そして皆のために。あのわくわく感を教えようと。この「小さい魔女」はドイツ優良児童図書賞に輝き、50年以上のロングセラーとなった。
(中出)
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