今月の表紙

特定非営利活動法人神奈川県日本ユーラシア協会機関紙「日本とユーラシア」

2017年10月号 No.672

行事予定

映画「不毛地帯」DVD上映会

不毛地帯  「あなた方関東軍司令部は、何故軍関係家族を先に避難させて、我々在留一般邦人を後回しにしたんですか」
 上記の台詞は、映画「不毛地帯」の主人公仲代達矢演ずる壱岐正陸軍中佐に、収容所へ向かうシベリア鉄道の中で、叩きつけられた怒りの言葉です。この一言にシベリア抑留の悲劇が象徴的に表されています。また、いろいろな映画評論誌にも引用されている言葉です。
 「不毛地帯」 は山崎豊子原作で、1976年に映画化されました。そして、1979年・2009年とテレビドラマ化もされています。今回はその最初に映画化されたものの上映会です。
 このシーンに出演し、この台詞を主人公に詰問した河崎保さんを招き、映画の裏話なども語っていただく企画にしました。
 映画自体は1976年製作ですので、主人公仲代達矢以外の出演者はほとんどこの世を去っています。河崎保さんは本当に貴重な存命者です。その河崎さんの挨拶・講演の後に、映画を上映します。日本ユーラシア協会ならではの企画です。 是非、お誘い合わせの上ご参加下さい。

【映画情報】
 二次防の主力戦闘機買い付けに暗躍する商社とそれらと癒着する政財界の黒い断面を描く。
 原作は山崎豊子の同名小説。脚本は「雨のアムステルダム」の山田信夫、監督は「金環蝕」の山本薩夫、撮影は「わが道」の黒田清巳がそれぞれ担当。

日時:11月26日(日)14:00~
会場:横浜平和と労働会館5F教室
参加費:500円(黒パン・お茶代)

お申し込み・お問い合わせ:
神奈川県日本ユーラシア協会事務局(平日・土曜12時~18時。日曜祝日休)
Tel/Fax 045-201-3714
eurask2@hotmail.co.jp

教室案内

バラライカ&ドムラ 体験レッスン&ミニコンサート

体験レッスン&ミニコンサート  ロシア民族楽器の美しい音色を体験してみませんか?
 第7回国際ロシア民族楽器コンクール「ベロゴーリエ杯」バラライカ部門第1位に輝いた世界第一級の奏者・北川翔先生のレッスンを直々に受けるチャンスです。
 また、北川記念ロシア民族楽器オーケストラ、バラライカ&ドムラ教室生徒によるミニコンサートも行われ、「ララのテーマ」「行商人」「G線上のアリア」などを演奏する予定です。
 入場無料、どなたでもご参加いただけます。準備の都合上、事前にお申し込みください。どうぞご期待を!

日時:11月4日(土)14:30~16:30
会場:横浜平和と労働会館2階 神奈川音楽センターホール(JR桜木町駅徒歩5分)
参加費:無料
※体験レッスンの楽器も無料で貸し出します。
講師:北川 翔
出演:北川記念ロシア民族楽器オーケストラ、バラライカ&ドムラ教室 生徒
お申し込み締切:11月2日(木)


ロシア民族楽器 「バラライカ」「ドムラ」教室

レッスン予定日:2017年度後期 (2017年10月~2018年3月)
前半:10月7日、10月21日、11月11日、11月18日、12月2日、12月16日

生徒募集クラス:
17:00~17:45ドムラ中級
18:00~18:45バラライカ初級

講師:北川 翔(バラライカ奏者、北川記念ロシア民族楽器オーケストラ主宰)
会場:横浜平和と労働会館5階
会員受講料(1回45分×6回分):3~5名クラス:24,000円、2名クラス:36,000円、1名クラス:54,000円


みなとみらいマトリョミン教室 アンサンブル/グループレッスン

 10月からレッスンを再開します。
 これまで習っていた方も、まだこれからの方も是非お申し込みください!

日程:毎月1回、土曜日開講
2017年度後期日程:2017年10月21日、11月18日、12月16日、2018年1月20日、2月17日、3月17日
※2018年は暫定、変更の場合あり

◆グループレッスン:
Aクラス 13:00~14:00 ※10月~12月は休講
Bクラス 14:10~15:10
◆アンサンブルクラス(90分):15:20~16:50(空席についてはお問い合わせ下さい)

講師:檜垣 紀子
会場:横浜平和と労働会館2階
神奈川音楽センターホール


横浜ロシア語教室 第127期生徒募集中!

 入門・初級・中級・上級・会話・日本案内の各クラス生徒募集中。中途編入も可能です。見学は3クラス・各30分まで無料です。詳細は教室ホームページをごらんください。

 受講お申し込み・お問い合わせは教室事務局まで。


新規ロシア語クラス案内

【入門】
 アルファベットの読み書きと発音、初歩の文法を学び、簡単な会話ができるようになることを目指します。
 また、語学学習を通じて、ロシア語圏の文化も学んでいきます。
 話す・聞く・読む・書く、全方向にバランス良く学べるよう絵や図を多く用いて構成されたロシアの外国人向け教科書を使って、コミュニケーションを意識した授業を行います。

◆ 土曜クラス(満席) 開講日:10月21日(土)14:15~ 講師:今井 イリーナ
◆ 木曜クラス(募集中) 開講日:10月19日(水)19:00~ 講師:大山 麻稀子

ロシア語体験講座終了

今井イリーナ  9月9日(土)、ロシア語教室の体験講座「発音クリニック」と「ロシア語入門」が無事に終了しました。
 土曜入門クラス担当の今井イリーナ先生の授業について「楽しかった」という意見が多く聞かれました。
 参加された皆様、どうもありがとうございました。

徳永晴美先生特別ゼミ~ロシア語学習の要領とヒント?~11月開講

徳永 晴美  ロシア語習得への効率的なアプローチはないものか?
 長年にわたり、テレビや大学で教鞭をとってこられた徳永晴美先生が「虫の目と鳥の目で見る」ロシア語攻略法を開示!

授業内容:
1. 「音に文法が潜んでいる!?」 ―単なる音から文法表まで―記憶のテコ
2. イマイチ分からん「不・完了体」と「移動(運動)の動詞―不・定動詞」
3. 発音してみよう。練習問題も少しやろう!!!

日時:11月25日(土)16:30~18:00、12月16日(土)16:30~18:00 (全2回)
受講料:一般5,000円、会員4,000円(2回分)
講師:徳永 晴美
定員:12名(満席になり次第締め切ります)
対象:初級文法とКОТОРЫЙ の用法を学んだ方
※横浜ロシア語教室の受講者を優先させていただきますが、上記テーマでのゼミに関心をお持ちの方々の参加も大歓迎です。

学習動画シリーズ「おもてなしのロシア語」No.6 配信開始!

 神奈川県日本ユーラシア協会横浜ロシア語教室の講師・スタッフの企画・制作・出演による「おもてなしのロシア語」動画シリーズはすでに5課まで配信されましたが、ごらんいただけたでしょうか?

 第6課は「店での買い物」がテーマです。簡単な単語やフレーズをいくつか知っているだけでも、お店でのお客様とのやり取りが楽しくなるはずです。

 この課では、「お土産を買いたいのですが」「いくらですか?」「レジはどこですか?」など、買い物するとき誰もがどこでも多く使うであろう易しい単語とフレーズを取り上げました。

 会話の中ではそれらの単語や表現が違うイントネーションで何回か繰り返されています。これはより覚え易くするためでもありますが、また、イントネーションを変えるだけで同じ単語の意味合いが変わってきて、会話を発展させて行けるからです。

 難しく考えないで、ロシア語の単語や表現をイントネーションで表情をつけながら覚え、楽しく使って、おもてなしを試みましょう。

脚本・出演:野口 福美、マリア・マクシモヴァ(横浜ロシア語教室講師)
撮影:田中 豊造
編集:竪山 洋子
監修:徳永 晴美
制作:NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会 横浜ロシア語教室

【視聴方法】 インターネットでYouTubeにアクセス
→「おもてなしのロシア語」または「神奈川県日本ユーラシア協会」で検索
※上の埋め込み画像をクリックすると直接見られます。また、横浜ロシア語教室HP、協会HP、Facebookからもリンクしています。

【シリーズ内容】
No.1 アルファベット
No.2 挨拶
No.3 出迎える
No.4 知り合いになる
No.5 許可を得る
No.6 店での買い物
No.7 通りで尋ねる
No.8 駅で尋ねる
No.9 レストランで

組織・財政

組織状況

(2017年9月30日現在)

 今年度年初会員数 221名、入会者累計 28名、退会者累計37名。9月末会員数212名。

 9月は8名の方が入会してくれました。みなさん10月からのロシア語講座に入学する人です。しかし、退会者が12名もあったので、前月より4名減の212名になってしまいました。

 退会理由は「ロシア語教室一時休止」による退会者が最も多く、学期の更新時期に当たるので、ロシア語教室入学による入会者が多い反面、ロシア語学習の中断による退会者も多くなってしまいます。ロシア語教室に通うのをやめても、協会に残っていただく方策を考えなければいけません。

 また、残念なことですが、「旅行に行けなくなった。」「会報が読めなくなった。」「施設に入った。」など高齢による退会者も増えています。

(木佐森)

財政状況

NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会2017/9/30
単位:円
摘 要本年度収入前年同期収入対前年同期増減
一般会計1,506,0421,437,30068,742
教育事業7,650,4336,753,649896,784
一般事業1,372,1331,637,251-206,771
合 計7,440,6307,378,099-265,118
前年同期(単位:円)2016/9/30
摘 要本年度支出前年度支出対前年同期増減
一般会計4,687,0944,966,231-279,137
教育事業2,870,0802,560,145309,935
一般事業985,366948,77436,592
支出合計8,542,5408,475,15067,390
当期剰余金1,986,0681,353,050633,018
合 計10,528,609,828,200700,408

貸借対照表 (2017/9/30)
科 目本年9月末残高前年同期残高対前年同期増減
流動資産8,295,7428,500,034-204,292
固定資産11,999,6759,604,7752,394,9000
資産合計20,295,41718,104,8092,190,608
流動負債25,47012225,348
固定負債000
負債合計25,47012225,348
純資産20,269,94718,104,8092,165,260

 9月は127期の授業料の前納分が増えていると共に、前期授業が8月まででほぼ終了していたこともあり、教室運営経費が昨年に比べ減少したため、当期剰余金も200万円に迫る勢いとなっています。しかし、物販販売を含む一般事業は、大きなイベントがなかったため、前年より減少傾向が続いています。

 キャッシュフロー
 4月の教室改修工事の支出により、流動資産は、まだ、前年を下回っていますが、6月末のマイナス76万から9月末ではマイナス20万に持ち直しています。これからも、みなさまのお力添えをいただき、毎月の当期剰余金額を増加させていければと願っています。

(木佐森)

お勧め商品

ボロディンスキー黒パンミックス 756円 (税込)

ボロディンスキー黒パンミックス  ホームベーカリーでも手ごねでも。ロシアの黒パンの代名詞「ボロディンスキー」2斤分のミックス粉が入荷しました!
 ご自宅で簡単にロシアの味を再現できます。袋の裏に日本語レシピが貼り付けてありますので、ロシア語が読めなくても大丈夫。ロシア人の毎日の食卓に欠かせない黒パンを是非お試しください!

原材料:ライ麦粉、小麦粉、ライ麦麦芽、砂糖、小麦グルテン、大麦モルトパウダー、塩、クミン、コリアンダー、クエン酸、カラメル色素
内容量:500g
賞味期限:2018年3月10日
保存方法:直射日光、高温多湿を避け涼しい場所に保存してください
原産国名:ロシア(ロシアンプロダクト社)

文化・芸能

芸 能

Русская Десятка ロシア・トップ10

Russia Airplay Chart TOP10  通りは涼しいけど燃えるように赤に黄色に染まっている七竃並木が眩しいロシアから、9月第4週のRussia Airplay Chart TOP10をお送りします。10曲中4曲が新曲、2曲がカムバック!

 9位にニューシャの「Не боюсь(恐れない)」がランクイン。今年モスクワ郊外にダンススクール「Станция свободы」を開校。8位にビラーンの「Держи(掴め)」が入りました。楽曲は今ロシアで流行のシンセポップ、PVは9月1日にリリースしたばかり。ノボシビルスク出身のラッパー・エルジェイと、モスクワ出身のラッパー・フェデュクのデュエットHIPHOP「Розовое вино(ロゼワイン)」が4位に。

 ウクライナのヘルソン出身、音楽オーディション番組ファーブリカ・ズヴョーズドの参加者バルスキフの新曲「Моя любовь(僕の愛)」が、首位になりました!新譜は7月末にリリースされ、48時間の間に視聴回数が5万回に達するという、前代未聞のPVになりました。おめでとうございまーす!:-)

画像引用元
Макс Барских→http://www.peoples.ru/
Нюша→http://www.peoples.ru/
Элджей→http://torrentworlds.ru/
Feduk→http://minimum.tsveti-arzamas.ru/
Дима Билан→https://slucak.org/
Monatik→http://hitplaneta.ru/

(Tophit.ru, Russia Airplay Chart 2017年9月18~24日/MOPA)

演劇・映画

シス・カンパニー公演 KERA meets CHEKHOV Vol.3/4
「ワーニャ伯父さん」

9月10日 於:新国立劇場小劇場

ワーニャ伯父さん  KERA meets CHEKHOVは、劇団ナイロン100℃の主宰者、KERAことケラリーノ・サンドロヴィッチが手がけるチェーホフ四大戯曲のシリーズで、今回が3作品目。ナイロン100℃ではコミカル・不条理・エネルギッシュなオリジナル作品を手がけるKERA が、このシリーズでは新劇以上のシリアスな舞台を作り出す。

 数えてみたら昨年末から今年にかけて「ワーニャ伯父さん」は4回目。いっこうに食傷しない理由は、好きな演目だからというのもあるが、それにも増して宮沢りえ、黒木華の演技が目当てというミーハー的観劇動機だ。

 宮沢りえは近年、唐十郎や野田秀樹のミューズとして不動の地位を築き、同じくシス・カンパニーによるKERA meets CHEKHOV Vol.2「三人姉妹」にも次女マーシャ役で出演。「ワーニャ伯父さん」では人妻エレーナを演じた。一言でいうと、「はまり役」。今まで見てきた「ワーニャ伯父さん」の中で一番元気がよく妖艶なエレーナで、言い寄る男たちを振り回し痛快である。一方、黒木華は「小さいおうち」でベルリン国際映画祭最優秀女優賞に輝いた若手実力者。ワーニャの姪であるソフィア役だったが、ソフトな声質にもかかわらず存在感があり、これまたワーニャを圧倒した感がある。お目当ての女優がすばらしく、それだけでも満足の一本といえる。

 また、KERAの台本も翻訳を自然なセリフに改編し、いわゆる「赤毛物」(日本で演じられる外国劇)特有のいやらしさがない。生ギターのシンプルな演奏も仰々しくない。そういった全体的にさらっとしたところが新劇を専門にやる劇団との違いといえるだろうか。

 シス・カンパニーは俳優のマネージメントも行うがいわゆる劇団ではなく、プロジェクトごとに演出家や俳優を決めて公演を行う制作会社である。いつもながら所属の違う売れっ子俳優をそろえるキャスティング力には毎回脱帽する。舞台写真を依頼したところ、チケット発売日を1ヶ月過ぎてもまだ稽古に入っていないと言っていた。つまり、約1ヶ月足らずで舞台を作り上げたわけで、出演者も制作もさすがプロだと感じ入った。残るKERA meets CHEKHOVは「桜の園」。キャスティングも気になるが、どんな喜劇となるかも気になる。ちなみに、舞台写真は今回も提供不可でした。

(滝沢 三佐子)

映画「ゴースト・ブライド」

(スヴャトスラフ・ボドゲイエフスキー監督 原題:Невеста / 2016年/ロシア)

ゴースト・ブライド  ロシアのホラー映画といえば「ヴィー」。それ以外にも、数多くの妖怪伝説や怪奇談は数多く、ゾンビの元祖はロシアからではと思えるほど。本作「ゴースト・ブライド」も、結婚式にまつわる怪談奇談にインスパイアされたポドゲイフスキー監督が、ロシアホラーの伝統を現代に蘇らせた、いわば正統派ホラー作品だ。ロシア国内でも今年1月に封切られ、1110の映画館で公開されたヒット作である。

 19世紀半ば、ロシアでは故人の瞼に瞳を描き写真を撮影した。それは撮影用の銀板に被写体だけでなく死者の魂をとどめておけると信じられていた。そのため、魂を留めた銀板と遺留品を用意し、生きた花嫁を生贄として捧げることで、故人は甦るというしきたりを持つ一族が、主人公ナスチャの婚約者であるヴァンヤの実家だった。

ゴースト・ブライド  幸せに満ち溢れ、フィアンセの実家に赴くナスチャ。ところが彼女はヴァンヤの一族が住む家で、恐ろしい幻影に悩まされる。しかしそれは幻ではなく、ヴァンヤの曾祖母であるオルガを蘇えらせるためにナスチャを生贄とするための儀式だった。

 蛇足だが、銀板への撮影といえば、黒沢清監督がフランス俳優を起用して撮った恋愛ホラー「ダゲレオタイプの女」(2016)が思い浮かぶ。撮影に長時間被写体を拘束する銀板撮影は、死との関わりが深い。当時の風習という共通項で、この2作品は見比べてみると面白いかもしれない。なお、本作は“21世紀の東西冷戦バトルホラー映画編”として、アメリカのホラー映画「ドクター・エクソシスト」(2016)と同時公開される。

 11月25日よりシネマート新宿ほか順次公開。

(文・滝沢 三佐子/写真(c)2017, Force Media LLC)

ユーラシア通信

シベリア追憶の旅(2)

ハバロフスク駅

ハバロフスク駅  ハバロフスク駅では今、地下道が改装中であるという。いつ完成するのであろうか。地下道の改装だけであろうか、プラットホームに屋根はつけないのだろうか、エレベーターやエスカレーターは設置されるのであろうか。今、あの時ガイドに詳しく聞いておけば良かったと思う。

 ~往 路~

 朝7時半ごろバスで駅に到着する。バスは駅舎までは近づけず、離れたところに停車した。駅の入り口まで荷物を運ばなければならない。旅行社にポーターを頼んであったので、自分たちが荷物を運ぶ必要はなかったが、そのポーターさんたちが気の毒であった。台車が使えないのだ。バスから駅の階段下まで一つ一つの荷物を手で運ぶしかない。なぜ台車が使えないのか不思議に思いながら荷物番をしている私に駅のポーターが台車を引きながら近づいて来た。売り込みである。そうか、駅のポーター以外は台車が使えないのは一種の業務独占なのかと勘ぐってしまった。

 旅行社のポーターさんたちは階段の下に一度荷物を集めた後、今度はその重い荷物を抱えながら階段を何回も昇り降りしなければならなかった。改装中なので地下通路は使えず、線路上の高い通路越しに荷物をホームに運ばなければならないのである。彼らは一度階段の上に荷物を集めて、そのあとでホームに降ろすと言う。

 ポーターがどんな風に荷物を運んでいるのか階段の登り口に入り、下から覗き上げていたら、入り口の真ん中にいた赤いチョッキの駅員風のおばさんに怒鳴られた。居丈高に怒鳴られてこちらも言い返したくなったが、相手にしないのが得策と思い直し、入り口傍に置いてあった荷物の所へ戻る。荷物番をしながら階段に向かう人々を見ていると、屈強な男性もいるが、子供たちや年老いた男女もいてさまざまである。大人たちは誰もが大きな荷物を抱えて気難しい顔をしている。それは以前どこでも見かけた群衆の風景と同じであり、その憂鬱そうな雰囲気は何も変わっていなかった。

 最後に自分の手荷物を持って階段に向かう。あの駅員風の赤いチョッキのおばさんはすでにいなかった。人込み整理の駅員さんではなかったようだ。あの居丈高な態度は何だったのだろうか。あの人は階段を下りてきただけの乗客で、何かの理由で芯から苛立っていて、誰かに八つ当たりしたかったのかも知れない。そんな時、暢気な顔をして面白そうに階段を覗いている私を見て腹が立ったのであろう。この階段ならそのようなことが起きても不思議ではないと上りながら納得する。

 その階段は実に高く、二か所の踊り場で折り返して上らなければならなかった。エレベーターもエスカレーターも無い。ひざが痛い私には無慈悲に思えた階段であった。悔しいけど手すりに摑まってゆっくりと上るしかない。今の私には大きなスーツケースを抱えてこの階段を上がるなどできないとポーターさんに感謝する。そして、時代は変わっても年寄りや弱者に配慮が無いところはまだ変わっていないことを実感する。

 駅のホームは半世紀前に降り立った時と同じく低かった。車両に階段が取り付けられているのでホームを高くする必要はないのだろう。しかし、その車両の階段も高く、荷物を運び込むとなるとかなり大変に思えた。キャスター付きのスーツケースを列車からスムーズに降ろせる日本が懐かしい。ただ、力持ちのロシア人にはこれしきのことは問題ないのかもしれないとも思う。むしろ、私達日本人が便利さに甘やかされて身体能力を弱めていることを心配すべきなのかも知れないと。しかしそれでもやはり、弱者も含めて多様な人たちが集まる駅なのだからもっと配慮が欲しいと私はこの駅に願った。

 今行われている地下道の改装はどのようになされるのであろうか。見た目よりも利用者に優しい配慮のある、エスカレーターもエレベーターもある地下道に改装して欲しい。ホームも高くして車両への出入りを楽にして欲しいし、せめて屋根付きで多くのベンチがあるプラットホームであって欲しいと願った。

 ~帰 路~

 そう、ホームに屋根さえあれば、あの帰路のハバロフスク駅での私たちの不運にはまだしも救いがあったはず。あそこまでずぶぬれにならなくて済んだはず。団員の人たちが風邪をひかないで済んだはずなのだ。

 今回の旅は天気にも恵まれ、団全体にとっても、私個人にとっても実に好調に進んでいた。私はハバロフスク駅に近づく帰路の列車の中で、すべてが順調に終わりつつあると安らかな気分でいた。このまま何事もなく上首尾に終わる気がしていた。だがそうは自然が許さなかった。

 ハバロフスク駅に近づくまでは、降ったり止んだりしていた小雨が駅に降り立つ直前に激しい豪雨に様変わりした。停車時間が30分もあるとは言え、豪雨が止むまで待つことはできない。スーツケースや段ボール箱の荷物を土砂降りのホームに降ろすしかすべはなかった。団員の皆さんも、ポーターさんたちも、荷物も、折りたたみ傘をさしていた私でさえもすぐにびしょ濡れになった。荷物を降ろしたものの、この後どうしたら良いのか。離れたところになるあの高い階段を何回にも分けて昇り降りするのか。私は、呆然とする思いで、濡れて形が崩れ行く段ボール箱を眺めていた。その時、ホームの反対側の線路にいた列車が出発して、線路越しに駅舎が見えた。誰かの指令があったわけではない。誰もが直ぐに必死になってその線路越しに駅舎へと荷物を運び始めていた。私も、ホームが低くて本当に良かったと思いながら、自分で運べるものを運んだ。もしホームが高かったら、線路越しに荷物を運ぶなど私にはできなかったであろう。10人近い乗客が線路越しに往復して荷物を運んでいるのだ。駅員が気付かないはずはない。でも誰も咎めなかった。日本では、乗客が線路越しに荷物を何回も運ぶなど、安全面の観点から駅側は絶対に許さず、大問題になるであろう。もしかしたら、ハバロフスク駅でも安全規則でこのような行為は禁止されているかもしれない。しかし、あまりにも厳しい条件下では規則のことなど言っていられない。大目に見る慣習もまたここにはあるのだろう。このようなロシア的おおらかさを私はいつもお面白いと思い、また大いに気に入っている。

(野口)

香港をお手本に「1国2制度」、50年間税無料、オフィス料無料

ウラジオストク簡易ビザ  外務省主催の「中央アジア+日本」対話・第10回東京対話が8月31日、霞が関の外務省北庁舎7階国際会議室で開催されました。また今年は、ソ連邦から独立した中央アジア5カ国(タジキスタン・カザフスタン・キルギス・トルクメニスタン・ウズベキスタン)との外交関係樹立25周年の記念年でもあります。

 対話の最初のゲストスピーカーとして、同対話が始まった2004年当時の外相の川口順子氏が当時の訪問の思い出などを語り、続いてアメリカ外交政策評議会中央アジア・コーカサス研究所長のフレデリック・スター氏が「かつてのシルクロードを管理していたのは、中国人ではなく中央アジア人のソグド人であり、安禄山はソグドとのハーフだった」など中央アジア地域の重要性を語りました。

 中央アジア5か国からの報告で、カザフの代表は、首都アスタナを香港のような“1国2制度”の金融都市にして、同市においては「50年間税金無料」「オフィス料無料」「30日間はノービザ」にする計画だと報告しました。各国とも中央アジアの地域安定について、懸念問題としてアフガニスタンを挙げ、地域として同国の国民所得の向上に協力していくことが求められているとしました。

 討論に移り、旅行業界大手のHISの関連会社である澤田ホールディングス取締役の小宮健一郎氏は「今年、キルギスのキルギスコメス銀行を買収(株60%取得)した。日本からの進出企業に財政支援や地元の有望企業を紹介していきたい」、また、投資先としてキルギスを選んだ理由は「キルギスは資源は少ないが、教育レベルが高い。また、東南アジアは投入資金額が大きすぎる。中央アジア諸国は今買い時だ」と述べました。

 最後に、カザフ代表は日本側の姿勢について「アメリカは中央アジアから手を引こうとしている。そこに中国が乗り出してきていて影響力を強めおり、ロシアの経済的影響力は弱っている。地元の中には中国嫌いがあり、日本への期待は高まっているが、日本側はそれに応えていない」と厳しい注文が出されました。

 神奈川県日本ユーラシア協会からは、長谷川さんと木佐森が出席しました。

(木佐森)

書評「園芸家12カ月」

カレル・チャペック著 小松太郎訳 中公文庫

園芸家12カ月  園芸家の草花への思いは恋愛に似ている。相手の様子に一喜一憂し、その様には限度というものを知らない。本書では、草木に恋している園芸家の姿が見事に描かれている。花へのあこがれは冬の窓に張り付く氷の花に始まる。それをみつつの一年。春になったらこんな種を蒔こうとか。じっと想像にまかせるのだ。いざ、春になると園芸家は急に忙しくなる。土が、ふかふかにならないとか、アルカリがこの花には少ないだろうかと花の芽が出るまでそわそわする。これはもう恋愛の初期症状である。チェコスロバキアを代表する作家であり新聞記者であった、カレル・チャぺックはそういう点で無類の大恋愛家であった。そして画家であった兄のヨゼフ・チャぺックはそんな弟のために何枚もの愉快な挿絵をこの絵のために提供した。彼の人生に必要なものは太陽と、ほどよい水ときれいな緑。そのためにもどんなことでも厭わないというわけである。そして花が咲くとちょっと講釈を述べたくなる。もうこれで彼は首からすっぽり恋愛にはまっている。きんぽうげの美しさを語らせたらいつまでも終わらず、水の心配までし始めるのである。散りばめられているジョークは心温まり、くすりとされているものである。いたって上品な程度良いスキップ・ジョークである。カレル・チャぺックといえば「ロボット」(何とこの造語を作ったのは先見の明があるかれである)、ノーベル賞対象作品となった「山椒魚戦争」などの本を別荘の緑に囲まれ、書きつつヒトラーへの鋭い政治批判を行ったことで知られている。ノーベル賞を辞退し、鋭角な理論を社説で展開していた人が、嵐の日、大好きな花の手入れから風邪をひき、肺炎をおこし家族と花々に見守られて死んだというのは何か少しだけ、象徴的と思うのは私だけであろうか。ユダヤ系であったためとその鋭いナチスへの批判が反感を買い、そのあと親衛隊は彼の別荘に乗り込んだが、もはや天空の人になっていた。文庫本サイズ。100%、きっとあなたを楽しくさせる。

(中出)

投稿歓迎!

 「日本とユーラシア」神奈川県版は会員みんなで作る機関紙です。もっと面白くしたい方、新しい企画を思いついた方、協会や機関紙について感想や意見のある方は、読むだけでなくぜひ投稿してください。

 ユーラシア関連ネタなら文章でも写真でも絵でも、ジャンルを問わず何でもOK。

 ただし全てボランティアで、自分のオリジナル、または権利者の許可を得たもの、著作権法に触れないものをお願いします。ペンネームや注意事項があればそれも忘れずに。

 文章は1記事800字以内が目安で、長ければ編集・分割して掲載する場合もあります。

 原稿はメールやFAXや郵便で下記へ送ってください。締切は毎月末で、翌月15日頃に発行されます。投稿をお待ちしています!

(機関紙編集部)

歴史・社会